刺身の熟成とは?ヒラメをさばいて食べる

魚をさばく(海鮮料理)

ヒラメを入手した

 先日の鯛に引き続き、白身のお魚を入手した。ヒラメだ。1.1kg、養殖、活締めのものだ。神経締めがされている。

 今回はこのお魚をさばいて、食べる。魚の長期熟成に関する近時の学術的な研究も紹介していきたい。

ヒラメを五枚おろしにする(動画)

 ヒラメはその身が薄く、さばくのは難しそうだ。

 ヒラメは「五枚おろし」にするのが通例のようだ。最初に背骨に沿って切れ目を入れ、背側と腹側で別々におろすらしい。三枚おろしで上手くさばくのは難しいか、無理なんだろう。

 「ヒラメを初めてさばくのなら、このくらいのサイズがいいよ。」とお魚のプロが言ってくださった。緊張が高まる。

 ウロコを取る方法もこれまでの魚とは勝手が違うようだ。包丁とかうろこ引きでうろこを取るのは具合が良くないらしい。「金ダワシでこする」か「すき引きをする」という選択肢があるようだ。

 「すき引き」とは、ウロコの下に包丁を入れて皮の一部ごと切り取る方法だ。皮を破っては身まで削ってはならない。難しそうだが、この方がかっこよさそうだからこっちでやってみよう。

 すき引きは難しかった。途中で少々コツを掴んで、少し大胆に包丁を入れられるようになってからはちょっとスムーズになったかな?二ヶ所だけちょっと皮を突き破ってしまったが問題なかった。

 ヒラメはウロコがとても小さく、皮に固くついているので、取りにくい。取り残したウロコが身についてしまっても気づかずにそのまま食べてしまいそうだ。なので、すき引きをして確実にウロコを処理するようだ。

 五枚下ろしは難しい。正確に背骨の頂点をとらえて切れ目を入れないと、うまく包丁が入っていかない。少しずつ包丁を進める繊細さも要求される。背骨の位置を十分に確認しながら切り進めた。

 あと骨が硬い。これくらいの大きさになると硬いのだろうか。エンガワに入るあたりで骨を見失ったこともあったが、それもヒラメの難しさかもしれない。

 というわけでさばき動画がございます。是非ご覧くださいませ。

【魚をさばく7】ヒラメの五枚下ろしに初挑戦

 せっかくまるのままからさばいたのだから姿造りにしてみよう。しかし、鯛とは違って色が地味だ。どう盛り付けるか。

 八百屋さんに行って、紫色の菊の花と黄色の金魚草を入手した。ふぐのてっさのように薄造りでいってみようか。

 ヒラメも熟成させた方が美味しいようだ。とりあえず一日待ってみた。美味しい状態で食べたいからね。慎重に水分を拭き取って金属のバットに並べたヒラメを冷蔵庫で眠らせ、そのときがくるのを待った。

 さて、盛り付けていこう。

 薄く切るのは難しいね。これは技術がモノを言う世界だろうか。がんばった。

 エンガワは皮を引く前に切り取ってしまう方法もあるようだが、今回は刺身に引く直前に手でビリビリと剥がした。これはこれでいい具合に分離できたと思う。

 できた!ヒラメに躍動感が出たよ!!

一日寝かせたヒラメを食べる

 美味い。淡麗な味ではあるけれども、咀嚼すると強い旨味があふれ出す。これはわたしはとても「濃い」味だと思う。中枢神経に訴えてくる味。多くの量を食べなくとも満足する味だ。

 エンガワはぷりぷりで美味しい。身とは明らかに異なる食感と味。ヒラメの楽しみだ。

魚介類刺身の熟成についての科学的知見

 ところで、刺身の熟成とは何なのか?

 魚介類の刺身の長期熟成については、その科学的知見を記した論文が近時発表された。東京海洋大学の食品物性学研究室を中心として執筆された「長期熟成魚介類刺身の呈味成分及びテクスチャー」(日本水産学会誌)という論文である。

 刺身を熟成させると美味しくなる。これはなぜなのか。この論文は、長期熟成がもたらす刺身の科学的な変化について測定、分析したものであり、極めて興味深い内容のものである。試料としては、カンパチ、アオリイカ、マカジキ、シマアジが用いられている。熟成期間は13日から31日の長期である。詳細は論文自体を是非ご覧いただきたいが、長期熟成による変化として以下の点が明らかとされている。

 刺身の長期熟成による変化

  •  分析に用いたいずれの魚においてもイノシン酸(又はアデニル酸)含量が大幅に減少
  •  いずれの魚においても遊離アミノ酸含量が有意に増加
  •  鮮度についてはいずれもK値(魚介類の鮮度指標)が20%を大きく超えた
  •  いずれの魚も水分含量が低下
  •  「柔らかさ」が増加した魚とそうではない魚があった
  •  「ねっとり感」の変化の分析については今後の課題

 これは驚きの研究結果だ。イノシン酸こそが魚のうま味の源泉だというのが従来の考え方だが、これに反する研究結果である。長期熟成によってイノシン酸は大幅に減少している。熟成させた刺身が美味しいのはなぜなのか。イノシン酸以外の要因が「味」に大きな影響を及ぼしていることを示唆する極めて興味深い内容である。

 この論文は、「刺身の美味しさ」についての従来の研究結果も随所に引用されている。「通常寿司屋が用いる熟成方法」なんてのもサラッと書かれている。読んでいて面白い論文です。是非ご覧になってください。「長期熟成魚介類刺身の呈味成分及びテクスチャー」この論文です。無料で読めます。

 追記:刺身の熟成と保存について、続編を書きました(2020/11/10)。具体的な保存・熟成の方法について。プロはどうやって熟成させているのか?魚はいつが一番おいしいのか?こちらもぜひご覧ください!

さらに二日寝かせる

 というわけで、ヒラメをさらに寝かせてみる。ヒラメは適切に処理すれば、長期間寝かせることも可能だという。

 翌日、昆布締めを仕込んだ。刺身に切りつけずにサクのまま羅臼昆布に挟んだ。

 そしてさらに翌日。さばいてから三日後だ。味はどう変わっているだろうか。

 24時間締めた昆布締めは美しい。

 盛り付けをやっていく。

 昆布締めを切るのは難しかった。水分がいい感じに抜けているんだろうか、身が刺身より固く感じる。表面に近い昆布に触れていたあたりが特に切りにくい。美しく切るのは至難の技だ。左下が昆布締め。琥珀色感と透け感が刺身よりもやや強い。

 エンガワも美しい。でかい。

三日寝かせたヒラメを食べる

 美味い。旨味をよりダイレクトに感じることができる。刺身のフレッシュさとジューシーさは変わらずだが、舌への馴染みが格段に良くなっている。その旨味がより早く中枢神経を刺激する。特に腹側の身の味がすごい。背側の身と味が違う。

 ヒラメは高価なお魚ではあるが、その理由がわかったような気がする。その味はわかりやすくはないかもしれないが、深い。本当に美味しい魚だと再認識した。

 また、寝かせることの意味も多少わかったような気もする。さばいた後すぐに食べるのと、しばらく寝かせた後では味のわかりやすさが段違いだ。すぐに食べてしまうのでは、ヒラメの真価は発揮されないだろう。

 一日寝かせたものでもしっかり咀嚼して味わえば十分に味はあると思うが、それを知らなければそういう食べ方をしないかもしれない。

 長期間寝かせるときはどうすればいいんだろう。衛生管理と温度管理が重要だ。家庭用冷蔵庫は扉の開閉に伴う温度変化が大きい。その影響を金属のバットは受けやすいだろうから、熟成させるときは金属のバットではなく、陶器の皿とか熱伝導の悪い器に入れるなど、なんらかの方法で庫内の温度変化の影響を最小限にするのが良いかもしれない。

四日寝かせたヒラメを食べる

 さばいた後、四日経った。どんどん美味しくなっているような気がする。どこまで熟成させられるのか、いつか限界に挑戦してみたい。長期熟成に伴う食中毒のリスクを最小化する方法も勉強してみたい。

 あと、ヒラメって薄いのに身がたっぷりとついていることがわかった。量がすごい。食べても食べてもなくならない。

アラはお吸い物にするよ

 キレイに処理したアラでお吸い物を作る。金だわしで表面と頭の中を洗い、ウロコなどの不純物を極力取り除いた。

 さらにヒレの部分を切り取り、塩をして30分ほど汗をかかせて臭いの原因となる液体を排出させた。

 それを熱湯にごく短時間(30秒から1分ほど)つけて、すぐさま流水で丁寧に洗った。

 そして昆布でとっただし汁の中で30分ほど煮込んで旨味をスープに移し、塩と白醤油で味を整えて完成!

 尾びれ近くの身を椀の実にしたものと、アラを豪快に放り込んだ二通りを作ってみた。

 スッキリとしているが、しっかりと出汁が出ており絶品だった。ヒラメは本当に美味しかった。

 ところで、今回のあら汁はさばいた後五日目に作った。上述の学術論文の分析を踏まえるならば、あら汁を作るにあたってはイノシン酸のピークである締めた後二、三日が経過したころに作るのがベストなような気がする。加熱する場合は刺身と異なり食感の変化が食味に及ぼす影響が少ないと思われるからだ。次回はその辺りのタイミングで作ってみよう。

タイトルとURLをコピーしました